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同一労働同一賃金ガイドライン見直し(2025年予定)と中小企業の対応ポイント

2025/11/13

お知らせ

同一労働同一賃金ガイドライン見直し(2025年予定)と中小企業の対応ポイント

 

はじめに

 

埼玉県さいたま市を拠点に、埼玉県内やWebを通じて全国の中小企業を支援するJinji Compass 社労士事務所です。

 

中小企業の経営者にとって、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に不合理な待遇差が存在しないかどうかは、労務管理上の重要な課題です。

2020年に施行されたパートタイム・有期雇用労働法および労働者派遣法に基づく同一労働同一賃金制度は、

職務内容や責任が同じであれば正規・非正規の区別なく公正な処遇を行うことを求めています。

2025年は、パートタイム・有期雇用労働法および労働者派遣法の改正施行(2020年)から5年目にあたり、
厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」が初めて本格的に見直される節目となります。
政府資料によると、労働政策審議会の部会では、最高裁判例を踏まえて退職金や住宅手当、家族手当、無事故手当、夏季・冬季休暇などを
ガイドラインに追加する案が検討されており、待遇差の理由付けや説明義務の整理も進められています。

(参考|第23回労働政策審議会 職業安定分科会 雇用環境・均等分科会 同一労働同一賃金部会

 

同一労働同一賃金制度は、

正社員と非正規社員の不合理な待遇差をなくし、職務や責任に応じた公正な処遇を実現することが目的です。
制度導入から数年が経ち、多くの企業が対応を進めていますが、
今後の見直しでは手当や福利厚生の範囲が広がるとともに「正社員だから」という抽象的な理由だけでは差を正当化できなくなるため、
自社の賃金制度や就業規則を再確認する必要があります。

 

本コラムでは、基本を振り返りながら、2025年改訂のポイントと中小企業が取るべき実務対応を詳しく解説します。

正社員と非正規社員の待遇差をなくしつつ人材を確保・育成するために、

就業規則や賃金規程の見直し、社内制度の整備をどのように進めるかを具体的にご紹介します。

 

 

同一労働同一賃金制度の基本

 

不合理な待遇差の禁止

 

パートタイム・有期雇用労働法では、

同じ企業内で正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に不合理な待遇差を設けることを禁止しています。
具体的には、職務内容(業務の内容)、責任の程度、配置の変更範囲などを総合的に考慮し、

合理的な理由のない差を解消しなければなりません。
厚生労働省ガイドラインの考え方(現行版)を前提に、埼玉県の労働相談Q&Aでも、

職務内容や責任、配置変更範囲等を考慮した合理的な理由がない限り、
抽象的な「将来の役割期待が異なる」といった説明だけでは格差を正当化できないことが強調されています。

なお、厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」では

基本給、賞与、各種手当、福利厚生、教育訓練などの具体例を提示し、
それぞれの待遇の性質・目的に照らして判断すべきだとしています。

待遇差が認められやすい例としては、職務内容や責任が大きく異なる場合や、

転勤の有無・職種変更の範囲に違いがある場合があります。

一方、同じ業務を担当していても正社員だけが家族手当や退職金の対象になるといったケースは、不合理な差と判断される可能性が高まります。

このような差を放置すると、行政指導によって是正を命じられるリスクがありますし、トラブルのもととなります。

 

待遇に関する説明義務

 

非正規労働者から正社員との待遇差について説明を求められた場合、企業には理由を説明する義務があります。
説明を求めた従業員への不利益取扱いは禁止されており、説明は客観的な基準に基づいて行わなければなりません。

説明義務が果たせない場合には行政から指導を受ける可能性があり、従業員の信頼低下にもつながります。

 

行政ADR(裁判外紛争解決手続)

 

待遇差に関する紛争が生じた際には、都道府県労働局長による助言・指導や紛争調整委員会による調停など、

行政ADR制度を利用することができます。
早期に第三者を交えた解決を図ることで、トラブルを長期化させないことが重要です。

 

 

(参考|埼玉県「均等均衡待遇について」

 

 

2025年ガイドライン見直しのポイント

 

2025年の見直しは、制度施行後の運用状況や最高裁判例を踏まえ、

「ガイドラインに載っていない待遇項目」や「合理的な理由の整理」などが論点となっています。

特に中小企業が押さえておきたいポイントをまとめると以下の通りです。

 

新たに追加が検討されている待遇項目

 

現行のガイドラインでは基本給、賞与、通勤手当、住宅手当、福利厚生、教育訓練、評価制度などが例示されています。

見直し論点では、これに加えて以下の項目を追加する案が挙がっています

退職金

勤続年数や会社への貢献に対する報酬として支給されるが、正社員のみ対象としている企業が多い。

 

住宅手当

勤務地や職務と関係なく支給している場合、非正規社員にも支給する必要があるか検討が求められる。

 

家族手当

扶養家族の有無に応じて支給する手当。職務や責任に関係ない場合は差を設けにくい。

 

無事故手当

運転業務などで事故を起こさなかったことに対する報酬。実績に応じた支給方法の検討が必要。

 

夏季・冬季休暇

ボーナス以外の季節休暇。有給休暇とは別に支給する場合の扱いを整理する。

 

賞与・病気休暇

賞与の支給基準や病気休暇の付与基準についても、非正規社員への適用拡大が議論されている。

 

 

これらの項目は、すでに多くの企業が正社員向けに導入しており、差が顕在化しやすい部分です。

ガイドラインへの追加によって、不合理な差と認定されるリスクが高まるため、

支給基準や対象者を明確にしておく必要があります。

 

正社員人材確保論の整理

 

「正社員を確保・定着させるために手当を支給する」という理由(正社員人材確保論)は、

待遇差を正当化する根拠としては弱いとされています。

部会資料では、手当や福利厚生の目的を職務や責任と結び付ける必要があると指摘されており、

単に正社員のモチベーション維持のためという説明では合理性が認められにくくなるでしょう。

 

「その他の事情」の明確化

 

待遇差を判断する際に考慮される「その他の事情」考慮することがガイドラインに記載されています。

しかし、この概念が曖昧であるとの指摘があり、見直しでは具体的な要素を列挙して解釈の幅を狭める案が出ています。

これにより労使双方の予見可能性が高まり、紛争の防止につながることが期待されています。

 

多様な正社員への適用拡大

 

勤務地限定正社員や職務限定正社員、短時間正社員など、雇用形態が多様化する中で正社員の定義も幅広くなっています。

見直し案では、こうした多様な正社員や、勤務地や職務が限定されていない無期雇用フルタイム労働者に対しても

ガイドラインの考え方を適用することが検討されています。

非正規社員から正社員へ転換しやすい仕組みを設ける企業にとっては、処遇体系の再点検が必要になります。

 

正社員の待遇引下げによる調整はNG

 

非正規社員との格差是正のために正社員の待遇を引き下げることは望ましくないとされています。

格差解消はあくまで非正規社員の処遇改善であり、正社員の待遇を悪化させる方法ではモチベーションが低下し、

優秀な人材の流出を招きかねません。

したがって、賃金制度の見直しは、全体のバランスを取りつつ非正規社員の改善を図る方向で検討すべきです。

 

新旧項目の比較表

 

下表は、現行ガイドラインで例示されている主な待遇項目と、見直し案で新たに追加検討されている項目を整理したものです。
自社の制度でどの項目を設けているか棚卸しをし、不合理な差異がないかを確認する際の参考にしてください。

 

カテゴリ

主な内容

新たにガイドラインに追加検討されている手当・休暇

退職金、住宅手当、家族手当、無事故手当、夏・冬休暇、賞与・病気休暇

既存ガイドラインで例示されている待遇

基本給、賞与、通勤手当、住宅手当、福利厚生、教育訓練、評価制度など

 

追加予定項目がどれだけ増えるのかを想定することで、見直しが企業に与える影響の大きさを把握できます。

 

 

(参考|第23回労働政策審議会 職業安定分科会 雇用環境・均等分科会 同一労働同一賃金部会

 

 

中小企業が取るべき実務対応

 

同一労働同一賃金ガイドラインの見直しに備え、中小企業が実践すべき対応策を整理します。
ここでは埼玉県内の事例も交えながら、どの地域の企業でも適用できるポイントを紹介します。

 

処遇制度の棚卸しと合理性の点検

 

まず、自社の賃金制度や各種手当・福利厚生の支給基準を洗い出します。

退職金や住宅手当、家族手当、無事故手当などの支給対象者・支給額を明確にし、支給の目的や職務との関連性を整理します。

最高裁判決で不合理と判断された項目はガイドラインに追加される見通しがあるため、

早期に基準を見直し、職務や責任に応じた合理的な基準を策定しましょう。

基本給や賞与についても、能力・業績・勤続年数などの評価軸をはっきりさせ、非正規社員にも説明できるようにします。

たとえば、業績給の算定方法や評価期間を明記し、正社員のみ加算している手当があれば根拠を示すか支給範囲を再検討します。

     

     

    就業規則・賃金規程の見直し

     

    手当や福利厚生の定義・支給要件は、就業規則や賃金規程に明記します。

    特に対象者の範囲(正社員・契約社員・パートタイム)や支給基準、支給方法を具体的に規定し、抽象的な表現を避けましょう。

    将来の役割期待が異なるなどの抽象的な説明では不十分とされているため、職務内容や責任に基づいた記載が求められます。

     

    また、待遇差について従業員から説明を求められた際の対応手順や資料も整備しておきます。

    説明義務への対応として、基準や理由を示す資料を準備し、説明履歴を記録に残すなどの運用ルールを作成します。

    不利益取扱いを禁止する社内ルールの徹底も求められます。

     

     

    従業員への周知と説明プロセスの整備

     

    規程改定や制度導入時には、説明会やイントラネットなどを利用して、従業員に周知します。

    特にパートや有期契約社員には制度変更の影響が直接及ぶため、相談窓口を設けるなど丁寧な説明が必要です。

    説明を求めた従業員に対して不利益な取扱いをしないことは法律で定められているため、社内の意識啓発も行いましょう。

     

     

    正社員転換や多様な正社員制度の導入検討

     

    パートや有期契約社員が希望すれば正社員に転換できる制度や、

    勤務地限定・職務限定正社員、短時間正社員などの制度を整えることで、

    非正規社員のキャリアアップの道筋を示すことができます。

    見直し案では多様な正社員にもガイドラインを適用する方向が示されているため、処遇体系や評価制度を統一的に見直す必要があります。

    正社員転換制度を導入する際は、転換後の賃金・手当・福利厚生の水準が合理的か、転換前との説明が十分かを検討します。

    評価体系の連続性や昇進基準も合わせて整備しないと、かえって不満が高まる恐れがあります。

     

     

    労使協議と専門家の活用

     

    処遇制度や勤務制度の見直しは、労使協議に基づいて進めるのが望ましいです。

    労働者代表や労働組合と協議することで、制度に対する理解と納得感を高めることができます。

    また、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談することで、

    最新の法令や判例を踏まえた制度設計が可能となり、紛争リスクを低減できます。

    実際にトラブルが生じた場合は、行政ADRを活用もしながら早期解決を目指しましょう。

     

     

    (参考|第23回労働政策審議会 職業安定分科会 雇用環境・均等分科会 同一労働同一賃金部会

    (参考|埼玉県「均等均衡待遇について」

     

     

    就業規則との関係

     

    就業規則は会社と従業員の間の労働条件を定める基本ルールであり、同一労働同一賃金の運用にも密接に関わります。
    ガイドライン見直しにより就業規則に追加すべき項目が増えると予想されるため、
    退職金や住宅手当を支給する場合の基準や計算方法、対象者を明文化し、
    正社員と非正規社員の差が合理的であることを説明できる状態にしておきましょう。
    家族手当や無事故手当を廃止する場合も、その理由や移行措置を記載するとトラブル防止につながります。

     

     

    まとめ

     

    • 同一労働同一賃金制度は正社員と非正規社員の不合理な待遇差を禁止し、企業に説明義務を課しています。

    • 2025年にはガイドライン見直しが予定され、退職金・住宅手当・家族手当・無事故手当・夏季冬季休暇などの追加や、
      正社員人材確保論の整理、多様な正社員制度への適用拡大などが議論されています。

    • 中小企業は手当・福利厚生の棚卸し、就業規則・賃金規程の見直し、従業員への周知・説明、正社員転換制度の導入
      といった実務対応を早めに検討する必要があります。

    • 労使協議を重視し、社会保険労務士等の専門家の支援を受けることで、
      ガイドライン見直しに対応しながら会社と従業員双方の納得感を高められます。

     

    当事務所では、最新の法改正や判例を踏まえた就業規則・賃金規程の整備や、

    制度改定時の従業員説明サポートまで一貫して提供しています。
    埼玉県内をはじめ、東京都、栃木県の中小企業の皆さまは、ぜひお気軽にご相談ください。
    Webを通じて全国の中小企業の皆さまのご支援も行っております。

     

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