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2026年労基法改正案「提出見送り」の解説:背景・論点と中小企業の対応

2026/02/14

お知らせ

2026年労基法改正案「提出見送り」の解説:背景・論点と中小企業の対応

 

埼玉県さいたま市を拠点に全国の中小企業を支援する Jinji Compass 社労士事務所です。

2026年に通常国会へ提出予定だった労働基準法の大改正案は、提出が見送られる方向となりました。
約40年ぶりの抜本改正として注目された論点も多く、今後の労務管理・就業規則のあり方に影響し得る内容が含まれていました。

 

本記事では、中小企業の経営者・人事担当者向けに、見送りの背景、主要論点と実務への影響、今後の見通しを専門的かつ読みやすく整理します。
最後に「今こそ就業規則や運用の点検が必要」である理由と、対応のヒントとなるチェックリストもご紹介します。

 


この記事でわかること

 

本記事では、労働基準法改正案(提出見送り)の動きを受けて、企業実務として「結局、何が起きていて、何を準備すべきか」を整理します。
具体的には次の点が把握できます。

  1. 改正案が提出見送りとなった背景
  2. 当初議論されていた主要論点と、実務への影響イメージ
  3. 就業規則・36協定・日々の運用のうち、今のうちに点検したいポイント
  4. すぐに使える「就業規則見直しチェックリスト」

「法改正が確定していない今だからこそ、どこまで備えるべきか」を判断できる内容としてまとめています。

 


見送りになった改正案の主な論点


※法案自体は見送られましたが、右欄の論点は今後も議論が継続される見込みです。

 

見送りの背景(政治・経済・社会・制度の4観点)

 

今回の提出見送りは、単一の理由によるものではありません。
政治・経済・社会・制度の4つの観点が重なり合った結果です。

下図は、その構造を整理したものです。
どれか一つの要因が決定打になったのではなく、複数要素のバランス調整が必要となった点が特徴です。


 


政治的背景:政策方針の整理と審議日程の制約

 

2025年10月に新たな内閣が発足した後、労働時間規制をめぐる政策の方向性について、政府内で改めて整理・検討が行われることとなりました。
報道等でも、新体制の下で「労働者の健康確保を前提にしつつ、働き方の多様化に対応した制度設計を検討する」旨の検討指示が出たとされています。

これにより、これまで有識者会議や労働政策審議会で積み上げられてきた論点についても、政策全体の整合性を踏まえて再整理・再検討が必要となったとみられます。

また、政治日程の影響も背景の一つとして挙げられます。
2025年末の国会運営や審議日程の制約により重要法案の審議スケジュールが見直される中で、労働基準法改正案についても提出時期を含めた検討が必要となり、結果として提出は見送られたものとみられます。

 


経済的背景:人手不足と企業活動への影響

 

政治・制度面の調整に加え、企業現場の実態や経済環境も見送り判断に影響したと考えられます。

深刻な人手不足や物価上昇等の環境下で、一律に労働時間規制を強化すると、現場の運用負担や人員確保への影響が大きくなる懸念があります。
生産性向上と労働力不足への対応は日本経済の喫緊の課題であり、制度設計においては企業活動への影響も含めて慎重な調整が求められます。

 


社会的背景:健康確保と多様な働き方の「両立」の難しさ

 

日本社会では近年、過重労働による健康被害(過労死等)の防止や、テレワーク・副業の広がりに対応した柔軟な働き方の保障など、労働環境改善への関心が高まっていました。

2019年の働き方改革関連法では時間外労働の上限規制や勤務間インターバル努力義務が導入されましたが、長時間労働の課題は業種・職種によって残っています。
そのため今回の改正論点でも「連続勤務上限」「インターバル制度」等が議論されていました。

一方で、社会全体でテレワーク・副業といった多様な働き方が浸透しつつあり、「時間や場所にとらわれない働き方」を望む声も強くなっています。

このように、健康確保(規律強化)と柔軟性(多様化対応)をどう両立させるかは調整が難しく、制度化の設計において検討課題が多く残っていたことも、提出見送りの背景の一つと考えられます。

 


制度的背景:40年ぶりの大改正ゆえの難しさ

 

労働基準法の抜本改正が約40年ぶりという制度面での大きな見直しであったことも、見送りの背景として挙げられます。

厚生労働省の有識者研究会報告書を叩き台に、労働政策審議会で議論が進められてきましたが、扱うテーマは労働時間制度の根幹に関わる多岐にわたる内容です。
制度全体の再設計には労使双方の合意形成に時間を要し、他制度との整合も慎重に検討する必要があります。

その結果、拙速に結論を出すのではなく、論点整理と制度設計を深める判断がなされたものと考えられます。

 


まとめ:見送りでも「論点が消えた」わけではない

 

以上のように複数の要因が重なり合った結果、改正案は提出見送りとなりましたが、労働環境改善の必要性そのものが否定されたわけではありません。

今後も、労働者の健康確保と多様な働き方への対応をどう制度に反映させていくかについては、法改正に限らず、ガイドラインや支援施策等を通じた検討が続くものと考えられます。
企業としては、今回の見送りを「様子見」ではなく、
働き方や労務管理の現状を点検・見直す機会として活用することが重要となります。

 

見送りとなった主な改正論点(7項目)と実務への影響

 

改正案は見送りとなったものの、当初議論されていた主要論点は、今後の労働時間制度の方向性を占う上で重要です。



今回の法案は提出見送りとなりましたが、
下図に示す論点は「将来的に制度化される可能性があるテーマ」です。

重要なのは、

✔ 自社の業種・規模で影響を受けやすい論点は何か
✔ 影響が出るとすれば「規程改定」か「協定見直し」か「運用変更」か

を切り分けて考えることです。

 


上記のような論点は「労働者の健康確保」と「多様な働き方への対応」を両立させる方向で検討されていました。
改正案自体は見送りとなったものの、これらは将来的な制度変更の可能性がある論点です。
企業としても頭の片隅に入れておき、点検の優先順位を整理しておくことが望ましいでしょう。

 

企業実務(就業規則・36協定)への影響:何をいつまでにすべきか

 

今回の提出見送りにより、直ちに就業規則や36協定を変更する必要はありません。
法令自体が改正されたわけではないため、当面は現行法の枠内での対応となります。
しかし、それで十分というわけではありません。
生まれた時間的余裕を活かし、中長期的な労務管理の見直し計画を検討しておくことが重要です。

 


法改正と企業実務の関係構造

 

多くの企業では、法改正が話題になると「就業規則の修正が必要になるかもしれない」とは意識します。

しかし実務上見落とされがちなのが、その変更が36協定や実際の運用にまで波及する可能性がある点です。

例えば、連続勤務の上限や法定休日の特定方法が変われば、結果として時間外・休日労働の枠組みにも影響が生じます。

法改正は、一般に次の順番で企業実務へ波及します。

 

 


就業規則への影響:将来の改正に備えた“棚卸し”が有効

 

改正論点が実現した場合、就業規則の記載変更が必要となる項目が複数あります。
例えば、法定休日を明示する条項、連続勤務の上限、勤務間インターバル、年休賃金の算定方法、副業規程、勤務時間外の連絡に関する方針などです。

現時点では法改正が確定していないため慌てて改訂する必要はありませんが、まずは「将来どの条項を直す可能性があるか」を把握しておくと、制度変更が再浮上した際の対応がスムーズになります。

 


36協定への影響:枠組みは同じでも“運用が変わる”可能性

 

36協定(時間外・休日労働に関する労使協定)は、仮に改正が実現しても枠組み自体が直ちに変わるわけではありません。

一方で、例えば週44時間特例の見直しが実現した場合、特例業種では「法定時間超過」の考え方が変わり、36協定の時間外枠や運用の見直しが必要になる可能性があります。
連続勤務上限や勤務間インターバルが制度化された場合、36協定で時間外・休日労働を定めていても、
勤務割・シフト運用が実質的に制約を受ける可能性があります。

企業としては「もし制度が動いたら、自社の36協定と運用はどこが影響を受けるか」を、今のうちにシミュレーションしておくと良いでしょう。

 

 

宙に浮いた課題への対応判断:続けるべきか、様子見か

 

提出見送りにより、「課題は認識されているが法的義務とはなっていない」状態の論点が残っています。ここは企業ごとに優先順位をつけて進めるのが現実的です。

  •  ・勤務間インターバル:努力義務でも安全配慮義務の観点から“検討価値が高い”
  •  ・連勤の抑制:現行法の枠内でも、健康リスク・離職リスクの観点から見直し余地が大きい
  •  ・副業:通算ルールが変わらなくても、申告・健康配慮の運用設計は必要
  •  ・つながらない権利:ガイドライン前でも、勤務外連絡のルール整備は労務リスク低減に有効

 

 

今後の見通しと制度以外の代替策

 

法改正が見送られても、労働時間制度の改善議論自体は続きます。
法改正以外にも、ガイドライン、助成金、行政指導、関連制度改正など、複数の手段で働き方改革が進む可能性があります。

企業としては、法律の改正有無だけで判断を止めず、行政が示す方向性や実務上の注意点を踏まえて、ルールと運用を更新し続ける姿勢が重要です。

 

 

【簡易診断】いくつ当てはまりますか?就業規則見直しチェックリスト

 

最後に、就業規則や労務管理を点検するためのチェックリストです。

見送りとなった今だからこそ、「今のうちに見直しておくべきポイント」を洗い出し、将来の制度変更にも備えましょう。

 □ 法定休日の特定:就業規則で法定休日を明確に定めているか?

 □ 連続勤務・勤務間隔:連勤抑制や休息確保のルール(規程・通知等)があるか?

 □ 年休の扱い:年休賃金の算定方法・取得促進策が整っているか?

 □ 副業・兼業:許可制/届出制などの手続と、申告・健康配慮の運用があるか?

 □ 勤務時間外の連絡:「勤務外連絡の考え方」を明文化し、管理職へ周知しているか?

 □ 就業規則の法令適合:最新の法改正が反映されているか?専門家のチェックを受けているか?
 ※法令に反する定めがある場合、その部分は効力を持ちません。気づかないまま運用しているケースも少なくありません。

 □ 規定と運用の乖離:事前申請制の形骸化など、規定と実態のズレがないか?

 

経営判断として押さえておくべき3点

 

  •  ・今回の労基法改正案は「白紙撤回」ではなく、「検討継続」のための提出見送りです。
  •  ・改正が実現すれば、最初に影響を受けるのは36協定よりも「就業規則・社内ルールの設計」です。
  •  ・今は様子見の時間ではなく、自社の労務管理体制を点検・整備する準備期間と捉えることが重要です。

 

対応の早い企業ほど、将来の制度変更にも余裕をもって適応できます。
制度は変わるかもしれません。しかし、労務管理の質は今すぐ変えることができます。

 

おわりに:今こそ就業規則や運用の点検を

 

労働基準法改正案の提出見送りにより、直ちに大きな制度変更が発生したわけではありません。
しかし、働き方改革の流れが止まったわけでもありません。

今後の政策動向を注視しつつ、企業としては自社の就業実態・労務管理の現状を踏まえ、働きやすい職場環境の整備に向けた検討を進めることが重要です。
中小企業こそ、職場環境の良さが人材確保・定着の強みになります。

 

「法改正されたら対応しよう」ではなく、今のうちに、できるところから点検・改善しておくことが、将来の制度変更にも余裕を持って適応できる企業体質につながります。
今回の見送りによって確保できた時間的な余裕を活かし、働き方と就業ルールを整えていきましょう。

 


参考資料・出典(※2026年2月時点)

 

資料名

発行元

本稿で参照した主なポイント

URL

労働政策審議会 労働条件分科会 資料(一覧)

厚生労働省

審議資料・議事次第(労働時間制度等)

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-rousei_126969_00004.html

労働基準関係法制研究会 報告書(PDF)

厚生労働省

改正論点の検討ベースとなる報告書

https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/001370269.pdf

労働時間法制の具体的課題について(PDF)

厚生労働省

労働時間制度の論点整理

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001595979.pdf

 


相談・支援のご案内

 

Jinji Compass 社労士事務所では、改正論点(提出見送りも含む)を踏まえたうえで、中小企業の労務管理・就業規則の見直し支援を行っています。
代表社労士が、次のような支援を提供いたします。

  •  ・就業規則・36協定の現状診断
  •  ・法改正に備えた規程・運用の最適化支援
  •  ・労働時間管理・休暇制度の設計支援


特に次のような場合は、早めの点検をおすすめします。

  •  ・「法定休日が曖昧」「休日・振替の運用が現場任せ」になっている
  •  ・残業申請・勤怠の運用が形骸化している(サービス残業リスク)
  •  ・副業の申告・健康配慮の運用がなく、トラブルが不安
  •  ・管理職による勤務時間外連絡が常態化し、負荷が高い

 

労務管理の改善や就業規則の整備は、企業の持続的成長と従業員の安心につながる投資です。
ご相談点があれば、どうぞお気軽に当事務所までお問い合わせください。