2026/02/27
お知らせ
「勤務間インターバル制度は義務化されるのか?」
「今すぐ就業規則を改定すべきなのか?」
2026年の労働時間制度見直し議論を受け、こうしたご相談が増えています。
結論から言えば、
本記事では、
✔ 勤務間インターバル制度の正確な位置付け
✔ 義務化議論の現状と今後の方向性
✔ 中小企業が今すぐ確認すべき実務ポイント
を整理します。
「義務化されてから慌てる」のではなく、
「義務化されても慌てない設計」にするための判断材料としてお読みください。
勤務間インターバル制度とは、前日の終業時刻から翌日の始業時刻までに一定時間以上の休息時間を確保する仕組みです。
例えば、
といった運用が典型例です。

勤務間インターバル制度は、2019年施行の改正「労働時間等設定改善法」により、事業主の努力義務として位置付けられました。
つまり、現時点では罰則を伴う法的義務ではありません。
しかし、導入状況を見ると課題が明確です。
厚生労働省:令和6年 就労条件総合調査の概況によれば、勤務間インターバル制度を導入している企業は5.7%にとどまっています(前年6.0%から減少)。
さらに、政府は「過労死等の防止のための大綱」において、2028年までに導入企業割合を15%以上とするという目標を明示しています。
つまり、国としては明確に「普及させる方向」に舵を切っているということです。
重要なのは、勤務間インターバル制度は単なる新制度ではなく、
という、既存の法的責任の延長線上にあるという点です。
制度を導入していなくても、企業には安全配慮義務があります。
休息不足が常態化している状況は、制度の有無に関わらずリスクになり得ます。
では、なぜ今、勤務間インターバルの「義務化」が議論されているのでしょうか。
理由は明確です。
現在の労働時間規制は、主に「残業時間の総量」を管理する仕組みです。
しかし、例えば次のような勤務は起こり得ます。
残業時間の合計が上限内でも、睡眠時間が削られ、慢性的な疲労が蓄積する可能性があります。
勤務間インターバル制度は、
「勤務と勤務の間隔」に着目した健康確保措置であり、36協定の上限規制を補完する仕組みなのです。

厚生労働省の専門検討会では、勤務間インターバルが短い勤務は十分な睡眠確保を妨げ、脳・心臓疾患リスクを高める可能性があると指摘されています。
また、近年の過労死認定基準の見直しにおいても、勤務間インターバルが11時間未満であることがリスク要因の一つとして位置付けられました。
これは行政判断の現場で、すでに「休息時間」が重視され始めているとも言えます。
欧州連合(EU)の労働時間指令では、24時間につき連続11時間以上の休息付与が義務付けられています。
ドイツやフランスなど多くの国では、すでに法的義務です。
日本の義務化議論でも「11時間」が基準として挙がるのは、この国際基準を参照しているためです。
実は、日本でも一部業種では休息確保が強化されています。
特定水準(B・C水準)に該当する医師には、
などの追加的健康確保措置が義務付けられています。
2024年4月以降、原則11時間以上、最低9時間の休息期間確保が基準として適用されています。
つまり、
「一部業種ではすでに実質義務化」されているというのが現実です。
厚生労働省の「勤務間インターバル制度の在り方に関する研究会」は、
という方向性を提言しました。
当初は2026年の労働基準法改正案への盛り込みが検討されましたが、労働時間制度全体の見直しとの関係から、改正案の国会提出は見送られました。
しかし、「見送り=議論終了」ではありません。
制度は継続検討事項であり、再浮上する可能性は十分あります。
勤務間インターバル制度は、2026年労基法改正議論の中で検討された論点の一つです。
改正案が「提出見送り」となった背景や、他の見直し論点については、下記コラムで詳しく解説しています。
勤務間インターバルは、
です。
だからこそ重要なのは、
「義務化されるか」ではなく
「義務化されても慌てない状態にあるか」
という視点です。
次章では、仮に義務化された場合、企業実務にどのような影響が生じるのかを具体的に整理します。
仮に勤務間インターバル制度が法的義務となり、たとえば
といった基準が明確化された場合、企業実務への影響は決して小さくありません。
これは単なる「規程の追記」ではなく、労働時間設計そのものの見直しにつながります。
もっとも影響を受けやすいのは、シフト制・交替制を採用している業種です。
例えば、
といった運用が常態化している場合、インターバル確保が困難になります。
義務化された場合、
といった変更が求められます。
これは人員配置・業務分担・採用計画にまで波及します。
よくある誤解が、「管理職は労働時間規制の対象外だから関係ない」という考え方です。
確かに労基法上の管理監督者は労働時間規制の適用除外です。
しかし、勤務間インターバルが「健康確保措置」として義務化される場合、実務上は管理職も無関係ではありません。
さらに、企業には安全配慮義務があります。
という状況は、法的リスクだけでなく組織リスクにもなります。
「管理職だから自己管理」という整理は、今後通用しにくくなる可能性があります。
副業・兼業を認めている企業では、インターバル管理はさらに複雑になります。
例えば、
この場合、休息は8時間未満です。
義務化された場合、
が必要になります。
副業を推進する企業ほど、休息管理の仕組み整備が不可欠になります。
勤務間インターバルが義務化された場合、影響は次の領域に広がります。
つまり、単なる労務問題ではなく、経営設計の問題です。
「まだ義務化されていないのだから、様子を見ればよいのではないか」
そう考える経営者も少なくありません。
しかし、勤務間インターバルは“将来の規制”というより、すでに存在する法的責任の延長線上にあります。
企業は、労働契約法第5条に基づき、労働者の生命・身体の安全を確保する義務を負っています。
長時間労働だけでなく、休息不足が常態化している場合、
が健康被害の原因となれば、企業の責任が問われる可能性があります。
制度がなくても、責任は存在します。
36協定は「時間外労働の上限」を定めるものです。
しかし、
というケースは実務上珍しくありません。
勤務間インターバルは、「残業の量」ではなく「休息の質」に着目したリスク管理です。
ここを見落とすと、形式的に適法でも実態は危険という状態が生まれます。
仮に過労による脳・心臓疾患やメンタル不調が発生した場合、問われるのは
です。
インターバル制度を導入していなくても、休息管理の体制が整っていなければ、リスク管理不足と評価される可能性があります。
重要なのは、義務化されてから整えるのでは遅いかもしれないという点です。
まずは制度導入ではなく、実態の可視化から始めます。
以下のチェック項目を確認してください。
|
チェック項目 |
確認内容 |
対応の方向性 |
|
終業〜始業の実態把握 |
従業員ごとの終業時刻と翌始業時刻の間隔を把握しているか |
勤怠データを抽出し、インターバル不足のケースを特定する |
|
深夜勤務翌日の始業管理 |
22時以降勤務者の翌日始業は何時か |
シフト設計時に最低9時間(将来は11時間も想定)確保できているか確認 |
|
36協定との整合性 |
特別条項発動時でも休息時間が極端に短くなっていないか |
残業命令の運用を再確認 |
|
管理監督者の勤務状況 |
管理職の実態を把握しているか |
深夜対応・休日対応も含め可視化する |
|
緊急対応時の例外処理 |
トラブル対応で休息が削られるケースがあるか |
代替休息措置・健康確保措置をルール化 |
|
副業・兼業者の管理 |
副業による休息不足を把握できるか |
申告制度・通算管理の枠組み整備 |
① 終業〜始業の実態をデータで可視化する
② 極端に短いインターバルがないか確認する
③ 就業規則に「休息確保」の記載があるか確認する
この3点だけでも、リスクの見え方は大きく変わります。
勤務間インターバル制度を就業規則に落とし込む場合、最も重要なのは、
「理念規定として設計するのか」
「拘束力のある強制規定にするのか」
を明確にすることです。
中小企業においては、現時点では健康確保措置としての理念型(努力義務型)で整備するのが現実的です。
いきなり「11時間未満は就業不可」といった強制型にすると、シフト・人員体制・賃金設計との整合性が崩れる可能性があります。

(勤務間の休息時間)
第○条
例外だけを書き、代替措置を書かないのは危険です。

これにより、将来的な制度強化にも対応しやすくなります。
勤務間インターバル条文は単独で完結しません。必ず以下との整合性を確認します。
特に注意すべきなのは、「特別条項で月80時間まで可能」としながら「必ず11時間確保」のような矛盾設計です。
条文同士が衝突すると、運用不能な規則になります。
もし将来的に「11時間未満は原則就業不可」といった拘束型にする場合は、
が必要になる可能性があります。
この場合は、
が不可欠です。
拙速な導入は、かえってトラブルを生むことがあります。
勤務間インターバル制度は、
という状態です。
しかし本質はそこではありません。
重要なのは、
「義務化されるか」ではなく
「義務化されても慌てない設計になっているか」
です。
制度が確定してから慌てて対応する企業は、
可能性があります。
一方で、
制度が強化されても大きな混乱は生じません。
では、現時点で自社はどの程度の優先度で対応すべきでしょうか。
以下の目安で整理できます。
・シフト制・交替制を採用している
・管理職が深夜・休日対応を常態的に行っている
・副業・兼業を認めている
・月45時間前後の時間外労働が常態化している
これらに該当する場合、形式的には適法であっても、休息不足が発生している可能性があります。
勤務間インターバルの観点から一度実態を可視化することを強くおすすめします。
・終業から始業まで常に10時間以上確保できている
・月20時間未満の残業が中心である
・固定勤務制でシフト変動がない
このような企業は、直ちに条文化まで進める必要は高くないかもしれません。
ただし、管理職や繁忙期の例外対応については確認しておくと安心です。
重要なのは、「義務化されたらどうするか」ではなく、
自社の実態が安全水準にあるかどうかを把握しているか です。
このテーマは単なる労務管理ではありません。
すべてに関係します。
条文をコピペするだけでは意味がありません。
自社の労働時間設計は適切か。
終業〜始業の間隔は本当に安全か。
就業規則は実態と整合しているか。
一度、冷静に点検してみる価値があります。
勤務間インターバルを含め、
を含めた総合的な点検が可能です。
「義務化されたら対応する」ではなく、「義務化されても慌てない設計」にしておくことが、これからの労務管理では重要です。
まずは現状確認からでも構いません。
ご相談点があれば、どうぞお気軽に当事務所までお問い合わせください。