2026/04/11

「うちはまだ人数が少ないから、就業規則はもう少し先でいい」
そう考えている経営者の方は少なくありません。
日々の業務に追われるなかで、売上や採用、現場対応を優先すると、就業規則の整備はどうしても後回しになりがちです。
ただ、就業規則は「人数が増えてから考えるもの」ではなく、「会社が小さいうちに土台を整えておくもの」です。
たしかに、法律上の作成義務は「常時10人以上の労働者を使用する事業場」に生じます。しかし、10人未満だから不要というわけではありません。むしろ、規模が小さい段階だからこそ、就業規則を整備する意味があります。
埼玉県さいたま市を拠点に全国の中小企業を支援するJinji Compass 社労士事務所です。この記事では、就業規則の作成義務が発生する条件と、10人未満でも作成をおすすめする実務上の理由を、経営者目線でわかりやすく解説します。

就業規則の作成・届出義務は、労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業場に課されています。違反した場合には、30万円以下の罰金の対象となる可能性があります。
ここで注意したいのは、基準が会社全体の人数ではなく、事業場ごとだという点です。たとえば、本社と支店が別々の拠点として独立して運営されている場合は、それぞれの事業場ごとに判断します。
また、「常時10人以上」には、正社員だけでなく、パート・アルバイト・契約社員も含まれます。一時的な繁忙期だけではなく、継続的に10人以上を使用している状態かどうかで判断されます。
就業規則が必要な会社と不要な会社の違いについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
▶ 就業規則が必要な会社と不要な会社の違いを社労士が解説
結論からいうと、法律上の義務がないだけで、実務上は作成しておいたほうがよいケースが多いです。
就業規則がないまま会社運営を続けていると、人数が少ないうちは問題が見えにくくても、採用・定着・労務トラブル・助成金申請の場面で徐々に支障が出てきます。特に中小企業では、ひとつのトラブルが経営への影響に直結しやすいため、早めの整備が重要です。

就業規則がない会社では、解雇・懲戒・休職・残業代・服務規律などをめぐって問題が起きた際に、会社として何を基準に判断するのかが曖昧になりやすくなります。
たとえば、無断欠勤を繰り返す従業員に対して注意・指導を重ね、最終的に懲戒処分を検討する場面でも、就業規則に懲戒事由や手続が定められていなければ、会社側の対応の正当性を主張しにくくなります。
労務トラブルでは、よく「そんな説明は受けていない」「そんなルールは知らなかった」という話になります。つまり、就業規則がない状態は、会社の考えが間違っていなくても、それを示す根拠が弱い状態です。
就業規則は、問題が起きたあとに慌てて作るものではありません。問題が起きる前に、会社を守るルールを整えておくことが大切です。
少人数の会社ほど、「うちは細かい規則がなくても回っている」「その都度話せばわかる」と感じやすいものです。実際、創業初期や少人数の組織では、それで回る場面もあります。
しかし、人数が増えたり、採用した人の価値観が多様になったりすると、口頭だけの運用には限界が出てきます。「聞いていない」「そんな約束はしていない」という行き違いが起こりやすくなるからです。
就業規則があれば、会社のルールが明文化され、経営者も従業員も同じ基準で判断しやすくなります。これは会社を縛るためではなく、むしろ現場判断のブレを減らし、無用な不信感を防ぐために役立ちます。
特に、次のような項目は口頭運用のままだと後で揉めやすいポイントです。
会社として当たり前だと思っていることほど、書面にしておく意味があります。
「10人になったら作ればいい」と考えている会社もありますが、実務ではその考え方は危険です。なぜなら、就業規則は思いつきで数日で作れるものではないからです。
就業規則の作成には通常、2〜3ヶ月程度かかることがあります。会社の実態確認・ヒアリング・原案作成・修正・必要に応じた関連規程の整備・周知方法の検討など、一定の時間が必要です。
しかも、10人到達前後の会社は、ちょうど採用や組織拡大で忙しい時期でもあります。そのタイミングで慌てて作ろうとすると、現場に合っていない規則になる・とりあえずのひな形で済ませてしまう・届出だけして運用できない・周知不足で結局トラブルになる、といった事態も起こりがちです。
会社が落ち着いている今のうちに整備するほうが、結果的に負担が少なく、実効性のある就業規則になります。
就業規則は、単にトラブル防止のためだけにあるものではありません。会社の働き方を設計するための土台でもあります。
たとえば、次のような制度は、就業規則や労使協定との関係が重要です。
こうした制度設計は、残業代の適正管理や働きやすさの向上、採用力の強化にもつながります。今後、採用競争が厳しくなるなかで、「うちの会社に合った働き方」を制度として整える意味はますます大きくなります。
10人未満の会社でも就業規則を整備しておくべき、非常に現実的な理由のひとつが助成金との関係です。
厚生労働省系の助成金では、就業規則の整備や、就業規則への規定反映が要件になるものが少なくありません。代表例としては次のようなものがあります。

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助成金 |
就業規則との関係 |
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働き方改革推進支援助成金 |
時間外労働の上限規制や有給休暇取得促進の規定が必要 |
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業務改善助成金 |
賃金引上げの規定が就業規則に反映されていることが条件 |
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キャリアアップ助成金 |
正社員転換制度等を就業規則に明記しておく必要がある |
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人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備コース) |
就業規則等の母国語翻訳など就労環境整備が要件 |
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65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース) |
65歳以上への定年引上げ・定年廃止・継続雇用制度の導入を就業規則等に規定することが要件 |
助成金は「あとで就業規則を直せばよい」というものではなく、申請前の整備状況や制度実施前の規定化が問われることが多いです。そのため、就業規則が未整備のままだと、そもそも申請のスタートラインに立てないことがあります。
就業規則の作成費用が一定程度かかったとしても、助成金の受給可能性やその後の労務トラブル防止まで含めて考えると、費用対効果は十分に見合うケースがあります。
当事務所の就業規則の作成費用・期間についてはこちらの記事をご参照ください。
▶ 就業規則の作成費用・期間・流れを社労士が解説|相場から依頼の手順まで
次のいずれかに当てはまる場合は、就業規則の整備を前向きに検討する価値があります。
経営者としては「まだ困っていないから後回し」で済ませたくなるテーマかもしれません。ですが、就業規則は困ってから作ると遅いことが少なくありません。
就業規則というと、どうしても「面倒」「難しい」「法律対応」というイメージを持たれがちです。しかし本来は、会社が安定して成長していくためのルールブックです。
つまり、就業規則は単なる「守り」の書類ではなく、採用・定着・制度設計を支える「攻め」の基盤でもあります。
就業規則の作成義務は、法律上は常時10人以上の労働者を使用する事業場に生じます。
ただし、10人未満の会社であっても、就業規則を整備しておくメリットは非常に大きいといえます。
特に、労務トラブルへの備え、口頭運用の限界への対応、将来の採用・組織拡大への準備、助成金や柔軟な働き方制度への対応という点を考えると、人数が少ない段階で整備しておくことは十分に合理的です。
就業規則は、人数が10人を超えてから慌てて作るより、まだ余裕のある段階で整備したほうが、実態に合った内容にしやすく、将来のトラブル防止にもつながります。
「うちはまだ小さい会社だから」と後回しにしているうちに、人が増え、問題が起き、慌てて対応することになるケースは少なくありません。
『うちはまだ早いのか、それとも今のうちに整えるべきか』の判断に迷われている場合も、お気軽にご相談ください。
Jinji Compass 社労士事務所では、10人未満の会社の就業規則作成・見直しにも対応しています。
単にひな形を当てはめるのではなく、貴社の働き方や今後の成長を見据えた形で整備したい場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。