ロゴ
COLUMN

コラム

TOP
就業規則の必須記載事項とは?労基法で定められた内容を社労士が実務目線で解説

2026/04/20

お知らせ

就業規則の必須記載事項とは?労基法で定められた内容を社労士が実務目線で解説

 

 

「就業規則に何を書けばよいのかわからない」

「法律上、必ず入れなければならない項目だけでも押さえたい」

 

そのように感じながらも、日々の業務に追われ、後回しになっている経営者の方も多いのではないでしょうか。

 

就業規則は、単なる社内文書ではありません。会社のルールを明文化し、労務トラブルを未然に防ぎ、万が一のときに会社を守るための土台です。

 

特に注意したいのは、就業規則には「何を書いてもよい」わけではなく、労働基準法第89条により、記載しなければならない事項が定められているという点です。実際、就業規則の不備は、日常の運用では見過ごされがちですが、退職時のトラブル・未払残業代請求・問題社員対応・懲戒処分・休職復職対応などの場面で一気に表面化します。

 

なお、就業規則については、常時10人以上の労働者を使用する事業場で作成・届出義務が生じます。もっとも、10人未満の段階でも、採用・退職・労働時間・服務規律などの基本ルールを早めに整えておくことには大きな意味があります。人数が増えてから慌てて作るより、余裕のある段階で実態に合った内容を整備したほうが、将来のトラブル防止につながりやすいためです。

 

埼玉県さいたま市を拠点に全国の中小企業を支援するJinji Compass 社労士事務所です。この記事では、就業規則に記載すべき事項を、単なる法律の説明にとどまらず、実際の会社運営でどこが問題になりやすいのかという視点も含めて、わかりやすく解説します。

 

この記事でわかること

 

  1. 就業規則の記載事項が3種類に分かれている理由
  2. 絶対的記載事項として必ず定めるべき内容
  3. 相対的記載事項として制度があるなら必ず書くべき内容
  4. 任意的記載事項を整備する実務上の意味
  5. 「ひな形では足りない」就業規則の落とし穴

 

就業規則の記載事項は3種類に分かれる

 

 

労働基準法第89条では、就業規則に記載すべき事項は大きく3つに分類されています。

種類

内容

絶対的記載事項

必ず記載しなければならない事項

相対的記載事項

制度を設ける場合には必ず記載しなければならない事項

任意的記載事項

法令・労働協約に反しない範囲で会社が自由に定められる事項

 

1. 絶対的記載事項

 

必ず記載しなければならない事項です。これが欠けていると、就業規則としての体裁以前に、法令上の問題が生じます。

 

2. 相対的記載事項

 

制度を設ける場合には、必ず記載しなければならない事項です。つまり、制度があるのに書いていない状態が最も危険です。

 

3. 任意的記載事項

 

法令や労働協約に反しない範囲で、会社が自由に定められる事項です。任意とはいっても、実務ではむしろここが重要になる場面も少なくありません。

 

この3分類を正しく理解していないと、「とりあえずテンプレートを埋めた」「ネットのひな形を少し変えただけ」という就業規則になりやすく、結果として実際の運用と条文が噛み合わない状態を招きます。

 

絶対的記載事項|必ず記載しなければならない事項

 

絶対的記載事項は、会社が就業ルールとして最低限明示しなければならない中核部分です。

 

1. 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇

 

労働時間に関する基本ルールです。具体的には次のような内容が該当します。

 

  • ・ 始業時刻・終業時刻
  • ・ 休憩時間
  • ・ 休日
  • ・ 休暇
  • ・ 年次有給休暇の取り扱い
  • ・ 育児・介護休業など法定の休業制度

 

一見すると当然の内容に思えますが、実務ではここが非常に揉めやすいポイントです。たとえばシフト制の会社で就業規則には固定時間しか書いていない、変形労働時間制を採用しているのにその仕組みが条文上不十分、こうした状態だと会社は制度を運用しているつもりでも、法的には適切に整備されていないということが起こります。

 

特に次のような会社は注意が必要です。

 

  • ・ シフト制を採用している
  • ・ 変形労働時間制を使っている
  • ・ フレックスタイム制を導入している
  • ・ パート・契約社員・正社員で勤務パターンが異なる

 

勤務実態が複雑になるほど、条文の書き方にも工夫が必要です。実態に合わない就業規則は、いざというとき会社を守ってくれません。

 

2. 賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期、昇給

 

賃金に関する事項です。

 

  • 賃金の決定方法
  • ・ 計算方法
  • ・ 締切日・支払日
  • ・ 支払方法
  • ・ 昇給に関する事項

 

経営者の方が見落としやすいのは、「給与額を書けば足りる」というものではないという点です。手当の性質が曖昧・控除の根拠が不明確・欠勤控除の計算方法が曖昧・昇給の有無や考え方が不明確、こうした状態では従業員との認識違いが起きやすくなります。

 

賃金規程を別に設ける会社も多いですが、その場合でも本則とのつながりが整理されていなければ不十分です。

 

3. 退職に関する事項(解雇事由を含む)

 

退職と解雇に関する事項も、必ず記載しなければならない重要項目です。

 

  • ・ 退職の申出・手続き
  • ・ 定年
  • ・ 解雇事由

 

ここは特に、トラブル発生時に最も問われやすい条項です。「勤務態度が悪いから辞めてもらいたい」「能力不足が続いている」「無断欠勤が増えている」こうした場面で、就業規則の条文が曖昧だと会社の判断が不安定になります。解雇は会社にとって非常に重い処分です。だからこそ、どのような場合に退職・解雇となるのか、条文として整理されていることが重要です。

 

相対的記載事項|制度があるなら必ず書くべき事項

 

相対的記載事項は、「制度を設けるなら、必ず書かなければならない」項目です。この分野こそ、実際の運用とのズレが起きやすい部分です。

 

代表的な相対的記載事項

 

事項

内容

退職手当

支給対象・計算方法・支払時期

賞与など臨時の賃金

支給条件・算定方法・支払時期

食費・作業用品などの負担

従業員に費用を負担させる場合

安全衛生

遵守事項・健康診断の実施など

職業訓練

研修参加時の費用負担・時間の扱い

災害補償・業務外傷病扶助

法定外補償を設ける場合

表彰・制裁(懲戒)

懲戒の種類・事由・手続き

特定の労働者に適用される事項

パート・契約社員など雇用区分ごとの事項

 

この中でも特に重要なのが懲戒規定です。

 

相対的記載事項は、単に「制度があるなら書けばよい」という話ではありません。実務では、制度の有無以上に、対象者・支給条件・判断基準・手続きが曖昧なまま運用されていることが問題になります。制度を設けるのであれば、後から会社と従業員の認識が食い違わないよう、運用まで見据えて設計しておく必要があります。

 

懲戒規定がない会社は、いざというときに動けない

 

 

たとえば、次のようなケースを想像してみてください。

 

  • ・ 無断欠勤を繰り返す社員がいる
  • ・ ハラスメント行為が確認された
  • ・ 会社の情報を無断で持ち出した
  • ・ SNSで会社の信用を傷つける投稿があった

 

経営者としては、厳正に対処したいと考えるはずです。しかし、就業規則に懲戒の種類・事由・手続が明確に定められていなければ、会社側の処分が無効と判断されるリスクがあります。問題が起きてから就業規則の不備に気づいても遅いのです。

 

また賞与や退職金も同様です。「慣例で払っている」「毎年出しているけれど規定は曖昧」という状態は会社にとって非常に危うい運用です。制度があるなら、その制度の対象者・支給条件・時期・計算方法などを整理し、会社が説明責任を果たせる状態にしておく必要があります。

 

任意的記載事項|”自由に書ける”ではなく”会社を守るために書く”事項

 

任意的記載事項は、法令に反しない範囲で会社が独自に定められる事項です。代表例としては次のようなものがあります。

 

  • ・ 服務規律
  • ・ 副業・兼業ルール
  • ・ SNS利用ルール
  • ・ 秘密保持
  • ・ 試用期間
  • ・ 配置転換・異動
  • ・ 在宅勤務・テレワーク
  • ・ 私物端末や情報管理に関するルール

 

「任意」と聞くとなくてもよいように感じるかもしれません。しかし実務上は、むしろここが会社ごとの個性であり、トラブル予防の要です。

 

たとえば、テレワークを認めているのに情報管理や勤怠申告のルールが曖昧、副業を黙認しているのに許可制か届出制かが整理されていない、SNS投稿で会社名が特定されるリスクがあるのに服務規律に触れていない、こうした状態では問題が起きたときに会社として一貫した対応がしづらくなります。

 

会社の実態に即した任意的記載事項を整えることは、単なる補足ではなく、経営管理そのものといってよいでしょう。

 

実務上、特に注意したい3つのポイント

 

1. 「制度がない」のと「書いていない」は別問題

 

制度が本当にないなら、相対的記載事項は不要です。しかし実際には、制度を運用しているのに就業規則に書いていないケースが少なくありません。

 

  • ・ 懲戒処分をしたくても懲戒規定がなく対応できない
  • ・ 賞与を支給しているのにルールが曖昧
  • ・ 退職金制度があるのに対象者や支給条件が不明確

 

このような状態では、会社の運用そのものが争われやすくなります。

 

2. 法令違反の条文は書いてあっても無効

 

就業規則は、書けば有効になるわけではありません。法令に反する内容は無効です。

 

  • ・ 年次有給休暇の付与ルールが法令と違う
  • ・ 減給の制裁が法定限度を超える
  • ・ 固定残業代の説明が不十分

 

誤った条文があることで、会社の労務管理全体への信頼を損なうこともあります。

 

3. 本則と附属規程の整合性が不可欠

 

就業規則は、本則だけで完結しないことが多くあります。賃金規程・育児介護休業規程・パートタイマー就業規則・ハラスメント防止規程・テレワーク規程など、附属規程が増えるほど条文同士のズレや矛盾が生じやすくなります。たとえば、本則では試用期間を3ヶ月としているのに別規程では6ヶ月前提で書かれている、賃金規程と本則で控除や締切日が一致していない、こうした矛盾は普段は見逃されても、トラブル時には大きな弱点になります。

 

ひな形を使うだけでは不十分な理由

 

「法律で決まっているなら、モデル就業規則を使えばよいのでは」と思われるかもしれません。もちろん、ひな形は出発点として有用です。しかし、ひな形は「自社に合うように設計されて初めて意味を持つ」ものです。

 

会社ごとに異なるのは、人員構成・雇用形態・シフトの有無・管理職の運用・残業の実態・テレワークの有無・問題になりやすい服務規律・採用退職時の実務フローなど、多岐にわたります。これらを反映せずに就業規則を作ると、あるだけで使えない就業規則」 になりがちです。

 

特に、ネット上のひな形やモデル就業規則をそのまま流用した場合、自社では採用していない制度が紛れ込んでいたり、逆に実際に運用しているルールが抜け落ちていたりすることがあります。これでは、平時には気づかなくても、問題社員対応や退職時トラブル・残業代請求などの局面で、かえって会社に不利に働くおそれがあります。

 

▶ ひな形をそのまま使うリスクについては就業規則を自分で作るリスクとは?社労士に依頼すべき理由をわかりやすく解説でも詳しく解説しています。

 

こんな会社は、就業規則の記載内容を早めに点検することをおすすめします

 

  • ☑ シフト制や変形労働時間制を採用している
  • ☑ パート・契約社員・正社員で労働条件が異なる
  • ☑ 賞与や退職金を慣例的に運用している
  • ☑ 問題社員対応や懲戒の場面が今後起こり得る
  • ☑ テレワーク・副業・SNS利用など新しい働き方への対応が必要になっている
  • ☑ 就業規則本則のほかに賃金規程や育児介護休業規程など複数の附属規程がある

 

1つでも当てはまる場合は、条文と実際の運用にズレがないかを一度確認しておくことをおすすめします。

 

まとめ|就業規則は「何を書くか」より「どう機能させるか」が重要です

 

就業規則の記載事項は、次の3つに分かれます。

 

  • ・ 絶対的記載事項:労働時間・賃金・退職など、必ず記載しなければならない事項
  • ・ 相対的記載事項:退職金・賞与・懲戒など、制度があるなら必ず記載すべき事項
  • ・ 任意的記載事項:服務規律・副業・SNS・テレワークなど、会社を守るために整備したい事項

 

重要なのは、法律上必要な項目を埋めることだけではありません。自社の実態に合っているか・トラブル時に本当に機能するか・附属規程と矛盾していないかまで見て、初めて意味のある就業規則になります。

 

就業規則は、従業員が10人以上になってから慌てて作るより、まだ余裕のある段階で整備したほうが、実態に合った内容にしやすく、将来のトラブル防止にもつながります。

 

就業規則は、法令上必要な項目を埋めれば終わりではありません。大切なのは、自社の実態に合っていて、トラブルが起きたときに本当に機能する内容になっていることです。特に、記載事項の漏れ・制度運用とのズレ・附属規程との不整合は、普段は見えにくい一方で、いざ問題が起きたときには会社に大きな負担をもたらします。

 

当事務所では、就業規則の新規作成・見直しについて、法令の要件を満たすだけでなく、現場で運用できる内容に落とし込むことを重視してサポートしています。「今の就業規則で本当に大丈夫か確認したい」「ひな形ベースの内容を自社に合う形に見直したい」という場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

 

就業規則の作成・見直しのご相談はこちら

 

関連記事
就業規則に盛り込むべき基本ルール5選|社労士がトラブル防止の視点から解説
就業規則に盛り込むべき制度・運用ルール5選|社労士が”機能する仕組み”を解説
就業規則を自分で作るリスクとは?社労士に依頼すべき理由をわかりやすく解説
就業規則の作成費用・期間・流れを社労士が解説

 

参考資料