2026/06/12
お知らせ
「パートや契約社員が少ないから、同一労働同一賃金はあまり関係ない」
「すでに一度対応したから大丈夫」
こうした認識で今回の改正を見過ごしている経営者・人事担当者は、少なくないかもしれません。しかし今回の改正は、そのような認識を一度見直すきっかけになるものです。
2026年4月28日、厚生労働省は同一労働同一賃金ガイドラインの改正省令・告示を公布しました。施行日は2026年10月1日。これは2020年の制度施行以来、初めての本格的なガイドライン改正です。
今回の改正のポイントは大きく2つあります。
一つは、近年の最高裁判決(メトロコマース事件・大阪医科薬科大事件・日本郵便事件など)で示された判断基準が、ガイドラインに明文化されたこと。もう一つは、これまでガイドライン上に明確な考え方が示されていなかった家族手当・住宅手当・退職手当・夏季冬季休暇・無事故手当・褒賞の6項目について、新たな整理が加えられたことです。
「裁判になったときに初めて問題になる話では?」と思うかもしれません。しかし今回の改正では、2026年10月以降に短時間・有期雇用労働者を雇い入れる場合、通常の労働者との待遇差について説明を求めることができる旨を雇入れ時に明示する義務が追加されます。これにより、従業員側から「なぜ差があるのか」と問われる場面が、今後は確実に増えます。
この記事では、中小企業の経営者・人事担当者が今回の改正を正しく理解し、必要な対応を取るための実務的なポイントを解説します。
以下に一つでも当てはまる場合、今回の改正を踏まえた確認が必要です。
一つでも当てはまる場合は、以下の内容を確認しておくことをおすすめします。
「まず現状を確認してほしい」だけでも構いません。
Jinji Compass 社労士事務所では、就業規則・賃金規程の現状確認から対応方針のご提案まで、初回相談無料で承っています。
同一労働同一賃金は、2020年4月(中小企業は2021年4月)に施行されたパートタイム・有期雇用労働法により法制化されました。総務省「労働力調査」2025年平均によると、非正規雇用労働者は役員を除く雇用者の約36.5%を占めています。施行から5年が経過した現在も、正社員とパート・契約社員等との待遇差をどのように整理するかは、中小企業にとって重要な課題です。
この間、正社員と非正規雇用労働者の待遇差をめぐる裁判が相次ぎ、最高裁が複数の重要判決を示してきました。ところが、これらの判決の考え方は必ずしもガイドラインに反映されておらず、企業にとって実務上の判断が難しい状況が続いていました。
今回の改正は、こうした最高裁判決の内容をガイドラインに明確に落とし込み、企業が対応方針を判断しやすくすることを目的としています。法律そのものの改正(罰則強化など)は見送られた一方で、ガイドラインの実効性を高める形での対応となりました。
深刻な人手不足が続く現状において、非正規雇用労働者の待遇改善は、単なるコンプライアンス対応を超え、人材の確保・定着のための経営課題ともなっています。

今回の改正では、これまでガイドラインに十分な記載がなかった以下の6項目について、新たな考え方と具体例が示されました。
最も注目すべき項目の一つです。
従来、家族手当は「正社員の生活を支援するための手当」として正社員のみに支給している会社が多くありました。しかし今回の改正では、継続的な勤務が見込まれる有期雇用労働者(契約更新を繰り返している等)については、正社員と家族手当の取り扱いに差を設ける合理性が問われやすくなっています。
ポイントは、「有期か無期か」という形式上の区分ではなく、実質的な継続雇用の見込みが判断基準となる点です。長年契約を更新し続けているパート・契約社員がいる場合、今後は「有期だから支給しない」という理由だけでは不合理な待遇差と判断されるリスクがあります。
確認すべき点:
住宅手当についても、新たな整理が加えられました。
住宅手当を正社員にのみ支給している場合、その合理的な理由として認められやすいのは、転勤や配置転換の可能性がある正社員に対して、住居費の負担を補助するために支給しているという説明です。
逆に言えば、転勤・配置転換の可能性がない正社員にも一律に支給している場合、またはパート・契約社員にも転勤等の可能性がある場合は、差をつける合理性が弱くなります。
確認すべき点:
退職手当(退職金)は、これまで「長期雇用のインセンティブ」として正社員のみに支給するケースが一般的でした。
退職手当については、制度の目的、職務内容、配置変更の範囲、雇用期間、登用制度の有無などを総合的に見て判断されます。そのため、「正社員だけ退職金あり」という制度が直ちに問題となるわけではありませんが、実態として正社員と大きな違いがないパート・契約社員等を一律に対象外とする場合は、合理的な説明が難しくなる可能性があります。
また「格差是正のために正社員の退職金を下げる」という対応は、労働条件の不利益変更として別のリスクをはらむため、単純に正社員側の待遇を引き下げるのではなく、パート・契約社員等の待遇改善を含めて、制度全体を慎重に見直す必要があります。
夏季・冬季休暇(いわゆる夏休み・お盆休みなど)についても、正社員にのみ付与している場合は整理が必要です。同一の職場で、同様の業務に従事しているにもかかわらず、雇用形態によって夏季休暇の有無に差がある場合、合理的な理由がなければ不合理な待遇差と判断されます。
無事故手当(安全運転や事故防止への功労として支給される手当)については、正社員・パート・契約社員等を問わず、同様の業務に従事して無事故であれば、同等に支給することが求められます。
永年勤続表彰などの褒賞についても、継続的に勤務しているパート・契約社員等が対象外とされている場合は、合理的な理由の説明が必要になります。
今回の改正で特に実務への影響が大きいのが、この新たな明示義務です。
2026年10月1日以降に短時間・有期雇用労働者を雇い入れる場合、労働条件通知書等に「通常の労働者との待遇差について説明を求めることができる旨」を明示する必要があります。
これが何を意味するかというと、パート・契約社員が「なぜ自分は正社員と違う待遇なのか」と会社に質問できることを、会社が積極的に伝えなければならないということです。
これまでは、従業員が申し出た場合に説明する義務がありましたが、今後は申し出の前提として「説明を求める権利がある」ことを会社から伝える仕組みに変わります。
この対応に備えて準備すべきこと:
「質問されても答えられない」という状態では、この義務を果たせません。今のうちから待遇差の整理と説明資料の準備を進めておくことが重要です。
今回の改正を踏まえると、就業規則・賃金規程の見直しが欠かせません。具体的には以下の点を確認してください。
各種手当(家族手当・住宅手当など)の支給対象・支給条件が、就業規則または賃金規程に明確に定められているかを確認してください。「正社員に支給する」とだけ書かれていて、なぜ正社員に支給するのか(目的・理由)が記載されていない場合、待遇差の合理性を説明しにくくなります。
正社員・パートタイム労働者・有期雇用労働者それぞれに適用される規程が、実態に合った形で整備されているかを確認してください。特に、長年契約を更新しているパート・契約社員がいる場合、その処遇が現在の就業規則・賃金規程とどう対応しているかを整理する必要があります。
現在の待遇差(基本給・各種手当・賞与・退職金・休暇)が、職務内容・配置変更の範囲・その他の個別事情に照らして合理的に説明できるかどうかを確認してください。「以前からそうしている」「慣行でそうなっている」という理由では、今後は通用しない可能性があります。
▶ 就業規則の整備が必要な理由と整備を怠るリスクについては就業規則を作らないとどうなる?中小企業で実際に起きるトラブルと対策でも解説しています。
▶ 就業規則・賃金規程の整備にかかる費用・期間・流れについては就業規則の作成費用・期間・流れを社労士が解説|費用相場と依頼手順をご参照ください。
▶ 2026年に対応が必要な法改正の全体像は【2026年版】就業規則・社内規程の必須対応まとめ|社労士が法改正ポイントを解説もあわせてご覧ください。

施行日は2026年10月1日です。待遇差の洗い出し・規程改定・雇用契約書の見直しには一定の時間がかかるため、早めに準備を進める必要があります。
正社員・パート・有期雇用労働者のそれぞれに適用されている待遇(基本給・各種手当・賞与・退職金・休暇)を一覧で整理します。「何が違うのか」を把握しないことには、対応の優先順位もつけられません。
各待遇差について、「なぜ差があるのか」を合理的に説明できるかどうかを確認します。「昔からそうしている」「正社員だから」という程度の理由しかない場合は、見直しが必要な項目として整理してください。
STEP 2で整理した内容を踏まえ、就業規則・賃金規程の該当箇所を見直します。手当の支給基準・対象を明確化する、不合理と判断されるおそれがある差については、パート・契約社員等の待遇改善や支給基準の見直しを含めて、実態に即した制度へ整備します。
2026年10月1日以降の雇入れから適用となる明示義務に対応するため、雇入れ時に交付する書類の様式を確認・更新します。
管理職・担当者が従業員からの質問に対応できるよう、待遇差の整理と説明資料を準備します。
A:はい、関係します。同一労働同一賃金の規定(パートタイム・有期雇用労働法)は企業規模に関わらず適用されます。パートや契約社員を一人でも雇用している場合は、今回の改正内容を確認しておく必要があります。
A:一律に「支給しなければならない」というわけではありません。重要なのは、差がある場合に合理的な理由を説明できるかどうかです。たとえば「正社員は転勤・配置転換があり長期雇用を前提としているため支給している」という説明が成り立つ場合は、差を設けることができます。ただし、長年契約を更新し続けているパート社員がいる場合は、個別に判断が必要です。
A:格差是正を目的として正社員の手当を下げる方法は、労働条件の不利益変更として労働契約法上の問題が生じる可能性があります。そのため、単純に正社員側の待遇を引き下げるのではなく、パート・契約社員等の待遇改善や支給基準の見直しを含めて、制度全体を慎重に検討する必要があります。
A:はい、初回相談にてご確認いただけます。現状の就業規則・賃金規程を拝見しながら、対応が必要な箇所・優先順位・進め方をご案内します。まずはお気軽にご相談ください。
A:従業員から待遇差の説明を求められた際に答えられない・または合理的な説明ができない場合、紛争や訴訟に発展するリスクがあります。また、行政機関(都道府県労働局など)による指導・是正の対象になる可能性もあります。
今回の同一労働同一賃金ガイドライン改正のポイントを整理します。
同一労働同一賃金への対応で重要なのは、「法律上の正解を知ること」だけではありません。自社の手当や休暇制度について、なぜその待遇差があるのかを説明できる状態にしておくことです。
特に、家族手当・住宅手当・退職金のように金額が大きくなりやすい待遇は、対応を誤ると従業員間の不満や紛争につながる可能性があります。
Jinji Compass 社労士事務所では、就業規則・賃金規程・雇用契約書の内容を確認し、今回のガイドライン改正を踏まえて見直すべき箇所を整理いたします。
「うちの規程で問題がないか確認したい」
「パート・契約社員への手当の支給基準を整理したい」
「2026年10月までに雇用契約書を見直したい」
という場合は、初回相談無料で承っています。お気軽にご連絡ください。